2006年5月

羊は、美しいか。(篆刻:美)

美

この前の日曜日は、日本全国、汗ばむほどの五月晴れだった。
我が家の向かい、田植えがすんだ棚田の上の方では、羊の毛を刈っている。
雄は「オーちゃん」、雌は「メーちゃん」。いまこの時期に刈ってやらないと、
暑さで病気になるそうで、大の男が二人がかりで大奮闘のご様子。
見るにみかねて、うちの「カーちゃん」も応援に駆けつけた。

それを見ながら、「トーちゃん」は桜の木陰で、シュロの毛刈りに汗を流す。
裏の斜面で5メートルほどに伸びて、屋根に倒れるとマズイので、
切り倒して放っておいた。もう2年もたつのに、毛の繊維は腐りもしない。
幹も腐らず丈夫だから、鐘つきの棒にするくらい。これを斜面の花壇の
土留めにするのだが、毛は草刈機に巻きつくから、鎌でむしり取る。

この「美」という文字は、神に捧げるよく肥えて大きな羊のこと。
見て美しい、というより、神様のご馳走、美食の「美」だったようだ。
羊のイナバウアーも、荒川さんのように美しいかな、とのお遊びだが。
さて、羊2匹は美しいヌードになったけど、シュロはまだ半分以上が毛だらけ。
私の体は、バリバリ。もう何回イナバウアーをしたことか。

怖いけど、飛ぶ。(篆刻:飛)

飛

「飛」は、鳥が羽を広げて飛ぶ形。ツバメが、我が家の縁側に飛来している。
手鏡で巣をのぞけば、卵は7つ。細身の体に7つは重い。まず入らないから、
2組の夫婦の寄り合い所帯と推察する。出たり入ったり、温めたりと、
めまぐるしく往来して、聞き取り調査もままならない。ツバメの来る家はめでたい、
というが、それが必ずしも正しくないことは、我が家が証明している。

卵の間は、まだましだが、ヒナになると、ツバメはほんとに忙しい。
ひっきりなしに餌を運ぶ。それを狙って、我が家の猫が、また忙しい。
低空飛行をすれば、ひょいと猫に跳びつかれる。ヒナがほどよく育てば、
蛇がそれを狙う。蛇除けに我が家は、巣の下で蚊取り線香を絶やさない。
7羽も生まれると、要領の良し悪しで育ち方にかなりの差が出てくる。

弱いヒナは、巣からはじき落とされることもある。巣立ちのときにも、
飛べずに地を這うヤツがいる。その時はどこからか数十羽が現れて旋回し、
飛び立つまで守り続ける。かくして、ツバメの子育ては、一族こぞって命がけ。
私も、あさって90を過ぎた母を見舞いに、何年ぶりかで飛行機に乗る。
JALは怖いからANAにした。人間だって、空を飛ぶのは命がけなんだぞ。

お忍びで、どちらへ。(篆刻:忍)

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春の珍事とは、こういうことか。
篆刻のホームページを立ち上げてすぐ、Aさんから個人印の注文をいただいた。
ご自分と家族、事務員さんの計5点。春までにはというお約束だったのが、
もう4月も終わろうとして、あわてて村の郵便局から送った。
窓口で重さを量ってもらい、料金を渡した。だから、切手は自分では貼っていない。

翌日には着いただろうが、何の連絡もない。さんざん遅れたくせに気になった。
そして4日目に、それが差出人である私に配達されてきた。
切手と消印がいっしょのシールが、プチプチ封筒の裏側、ベロに×をして、
住所、名前の後に「出」と書いた面に貼ってある。絶句した。すぐ局に行って、
局長に見せたら、彼も絶句した。自ら直接京都まで届けたという。ご苦労さま。

日本郵政公社のスローガン「真っ向サービス」が「真後ろサービス」になった。
シールを貼った人もあんまりだけど、それを仕分けした人も、また配達した人も、
みんな仲良く真後ろを向いている。とても堪忍できる話ではないが、
この篆刻の「忍」は、そこをこらえて、心を丸く、といっている。じゃあ堪忍するとして、
この郵便物が4日もの間、お忍びでどこをほっつき歩いていたのか教えてよ。

歯が痛くても、笑う。(篆刻:笑)

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「咲」のすぐ後に、この「笑」が登場するはずだったのに、段取りが狂った。
木の芽時だからか、ノートパソコンが時々情緒、いや動作不安定になる。
で、生意気にもWEBマートでSOHO向けデスクトップに買い換えたら、
これがワードもエクセルもない丸裸。有料セットアップしたのに、すべて初期化して、
自分でセットアップし直し。笑うに笑えない数日を経て、やっと「笑」になりました。

山が笑う話をしたかったのに、山はとっくに笑い終わって、もう緑一色である。
ここから奈良市内へ出る手前の飯盛山は、その名のままにご飯一杯分の姿。
春日の原生林につらなる雑木の山で、見るたびに表情を変えて楽しいが、
圧巻はこの山が笑う時期。冬に溜め込んだエネルギーのすべてが芽吹きとなり、
金銀のウブ毛が山を包み、陽光を浴び、風にそよぎ、笑いさざめく、ように見える。

この「笑」の額を、奈良の展覧会に出品した。希望があればお譲りするシステムで、
歯医者さんがお求めになった。聞けば、患者さんが座る椅子の前に掛けたいと
おっしゃる。字が、笑っているように見えると。虫歯でも、親知らずでも、
シソーノーローでも、入れ歯でも、歯列矯正でも、歯が痛くて泣きベソの
患者さんの前でも、この字は笑い続ける。もうすぐ笑顔になれますよ、と。

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