2010年10月

継なぐ、危機。(篆刻:継)

継
篆刻は「継」(実寸は63×21ミリ)。奈良・国際奈良学セミナーハウス(旧世尊院)で
3年に2回開催している野の花と遊ぶ「花の会」との共同展《三游会》は、今回で
もう13回目。今年は11月19日(金)?21日(日)で、そのテーマが「継(つ)なぐ」。

花の会は、晩秋の野の花穂や種が次の季節に生命をつなぐ姿を表現する。篆刻の
楽篆堂は、石に彫った篆刻を紙に押して額装、展示するというこれまでの形が中心
だけれど、篆書体のステンドグラス数点を出品。韓国のパッチワーク「ポジャギ」で
篆書体をデザインしたりで、新しい素材につなぐ試みをする。篆刻教室「天の会」の
生徒さんの作品もご覧いただくなど、いつになく多彩な展示になりそうなのだが・・・

準備は(けん・篆刻を紙におすこと)で苦労した。あまりにも紙が悪すぎるのだ。
私は、篆刻の輪郭をシャープに出したいので高知産の手漉き雁皮紙を使っている。
マット紙で篆刻の周囲を狭く囲むので、紙の小さな汚れやゴミがとても目立つから、
きれいな紙を選ぶのだが、最高級なのに使えるのは10枚に1枚あるかないか。

あまりにひどいので高知の問屋に聞いてもらったが、答えは「職人がいなくなって、
これが限界」という話。包みにある「特漉極上」のゴム印が空しい。これが日本の
紙漉きの現状。薄い紙からその苦しみが伝わってくる。「継なぐ」ことの危機がある。

莫山先生の、芯。(書:榊莫山)

莫
仕事場の書棚に女性のヌード写真集があったので尋ねると、「女の人の絵を描くんで
勉強しとるんや。あまり人に言わんといてな」と、莫山先生は照れながらおっしゃった。

1990年、松下電器の《あかり文化2000》という新聞シリーズ広告の撮影取材の時。
「土」という文字を書きながら、「墨はな、乾きながら刻々と表情が変わるんや。
おもろいもんやなあ」と、あの笑顔で屈託がない。滞りなく終わったところで、私は
持参した2、3の篆刻を見ていただいた。「おもろいなあ、エエなあ」と言いながら、
真新しい印譜にさらさらと「コノ印譜 杭州西冷印社デ求メマシタ 莫」と書いて
「これに全部押せたら、また見せてや」と、それを下さった。そのサインが、これ。

その後、新旧とり混ぜて全頁がうまったので、神戸の個展会場で見ていただいた。
また「おもろいな。エエなあ」なので、拍子抜けしたのだが。先生の本にサインを
求める女性が聞いた。「漢字とカタカナで書かれるのは、何故ですか」 先生いわく、
「漢字とカタカナは兄弟やろ」 きょとんとする女性に先生は「それも分からんで
書道しとるんか」とひと言。本を買ったお客さんなのに、何ときつい言葉をと驚いた。

書は誰でも読めるものでなければならない、とやさしく書いたその文字には、強くて
堅い芯があった。書壇を離れて、独り歩きながら手にしたものだった。多謝。合掌

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