2014年6月

壽屋の、開高さん。(篆刻:壽)

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『壽屋コピーライター 開高健』(たる出版)という本。これは、読まずにはいられない。
開高健は小説家を熱望しつつ苦悶する最中、子どものミルク代のために宣伝文案を
書いて生涯初の原稿料1枚500円を手にする。それを渡したのは佐治敬三。それが
機で壽屋の社員だった妻・牧羊子と開高のトレードが成立する。それで開高は「広告人
即小説家」であることを運命づけられ、開高と佐治の稀有ともいえる交流も始まった。

著者の坪松博之氏はサントリーの広報部で編集の方だが、開高の広告と小説を
合わせ鏡のように時代を追いつつ解説し、随所で関わりの深かった人々の言葉を
交えながら、人間・開高健の深く厚い肖像を浮かび上がらせていく。多くの人々の
中でも、やはり佐治との「兄弟のようだが、兄弟でもこうはいかない」ほどの関係こそ、
開高を開高たらしめたことを強く印象づける構成は見事。キーワードは「水仙」だ。

開高はベトナムに疲れて訪れた越前で、地中海、シルクロードを経て越前岬にたどり
ついた水仙に自身を重ね合せたようだ。お別れの会には3千本の越前水仙が用意
され、納骨式法要にも球根の水仙が届けられた。佐治はその球根を持ち帰り、大阪の
自宅に植えた。「開高は佐治に沢山の言葉を届けていた。最後に開高からもたらされた
メッセージ、それは白い水仙の花であった。」「佐治は水仙に語りかけていたのである。」

空気を編集、ジャパングラフ。(篆刻:編)

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READY FORは、クリエイティブな活動を支援する日本初のクラウドファウンディング。
ネットでプロジェクトを公開し、期間内に資金の目標を達成できたら、カードが決済され
支援が成立するというもの。カメラマンの森善之さんが責任編集する『ジャパングラフ』と
いう雑誌が、印刷資金200万円のため、これに参加した。知らせがあってすぐ貧者の
一灯を投じ、数人の知人にもメールで協力をお願いした。経過の通知では苦戦の様子、
ダメかと思ったが、ぎりぎりで成立となった。そして昨日送られてきたのは「05/47島根」。

「暮らしの中にある47の日本」で滋賀、岩手、愛媛、群馬に続く第5号。昨日のうちに
すべての写真を見、文章を読んだが。さて、この雑誌のキャッチコピーを頼まれたなら
どう書けばいいのか。ほとんどが車中泊の様子で、それなりに撮影や取材の交渉も
している気配はカメラマンが書いた文で知れるが、内容自体は実に淡々としたもの。
そこへ行って、出会ったもの、こと、人をケレン味なく綴っていく。写真はといえば、空、
雲、山、海、家、そして人、仕事、顔。今朝もパラパラとめくりながら、ふと気づいたのは、
これは島根の“空気”を紙上で再編集したものだ、ということ。そんな意味では本当に
ユニークな雑誌ではあるけれど、第6号は愛知で来年発行予定らしいけれど、いつに
なったら全47号が完結するものやら。とにかくドン・キホーテ森と仲間たち、頑張って!

保健所が、消えた。(篆刻:保)

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先日、私が班長をしている隣組でちょっと厄介なことがあり、市の保健所に大変に
お世話になった。届け物もあったのでお礼かたがた訪ねた。地図を検索して場所は
すぐ分かったのだが、建物に駐車場が見つからない。あそこだと指差されたのは
「はぐくみセンター」と表示された場所。入口にいた係に「はぐくみセンターじゃなく
保健所に来たのだが」と言えば、「保健所は、はぐくみセンターの中にある」との答え。

2、3年前に愛称が決まって、保健所とあった上に愛称の方を貼ったと、ヘラヘラ笑い
ながら言う。保健所と子育て支援や生涯教育などの教育総合センターがひとつに
なって「はぐくみセンター」の愛称が生まれたらしい。しかし、ノロウィルスやインフル
エンザで困って、その撲滅を願う人が保健所に行ったのに「はぐくみセンター」では
面喰うだけじゃなくて、腹が立つんじゃないか。保健所と教育センターが一緒になった
のは市の都合でしょう。公共施設に安直に愛称を付けないでほしい。付けてもいいが、
あくまでも保健所と明示して、まだ知らない人の方が多いだろう愛称はフリガナ程度に
とどめてほしい。保健所の担当の方には、本当にここまでやってもらえるのかと頭が
下がったのだが。そんな働きの積み重ねが両者の距離を縮めてくれる。行政が愛称
さえつければ親しみやすくなるなんて考えているあいだは、まだ遠い存在ではないか。

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