2016年8月

古稀と「知好楽」。(篆刻:知好楽)

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古稀などまだ他人事と考えていたから意味も知らなかったが、自分事になったので
作品にすることにした。杜甫の詩「酒債尋常行処有(酒のツケは行く先々に有る)」に
続く「人生七十古来稀」で、その対比が面白い。対の作品は10月28~30日、奈良・
大乗院の三游会でのお楽しみに。70歳の実感などないけれど、周囲の変化はある。

運転免許の更新時に70歳になるので高齢者講習を受けろという。同年代よりやや
優れているようで、ひと安心。健康保険の負担が3割から2割になって、バス代も
ここから奈良まで700円だったのが100円で済む。高齢者として優遇していただき
ながら、小学校4年の盲腸以来病気らしい病気もない。広告の仕事は好きだったし
マクドナルド、P&G、ローソンなどのスタートを担えたのもラッキーだった。65歳の頃
篆刻に軸足を移してからも、ほぼ理想的なHPシステムのおかげもあって、間断なく
篆刻の注文をいただき、一人ひとりのご要望をどう形に出来るか楽しくてしかたない。

篆刻「知好楽」は、論語の「これを知る者は好む者にかなわず、好む者も楽しむ者に
かなわず」による。苦しいこともあったけれど好きだった広告は、不特定多数が相手。
いまはマンツーマンの篆刻で、出来上がりへの反応がダイレクトにいただける。だから
ますます頑張れる。知より好、好より楽が実感できる、きょう70歳の私は幸せ者だ。

『阿久悠日記を読む』を読む。(篆刻:悠)

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『阿久悠日記を読む』は副題で、書名は『不機嫌な作詞家』(三田完著、文芸春秋刊)で、
明治大学の阿久悠記念館保管の26年7ヵ月分の日記から、阿久悠の真実に迫る試みだ。

淡路島の巡査の次男として生まれ、8歳で兄が戦死、14歳で結核のため自宅療養などが
『時代おくれ』の歌詞の下地と知ったのは収穫だった。ヒットを出し、賞を立て続けに獲った
頃、父がポツリと一言「お前の歌は品がいいね」。それを勲章に彼は詞を書き続けたという。
この話は泣ける。小林旭の『熱き心に』は好きな歌だが、元はAGFのCMソング。私も何回か
お世話になった大森昭男さんプロデュースと知って驚いた。歌は『北帰行』の小林旭でスタート。
大森さんは大瀧詠一以外ならやらないと決めた。大瀧は曲が出来上がった夜中、妻を叩き
起こして「聴け!」と言った。そして彼はその曲の詞をまだ面識のなかった阿久悠に託した。
この話にも泣けた。宣弘社時代の後輩が昭和の絵師・上村一夫なのだが、上村から贈られた
イラストを阿久悠は自室の押し入れの中の正面に飾ったという。その篤い思いにも泣けた。

後半は壮絶な闘病の記録だが、腎臓癌の手術の直前にNHKの「課外授業」で母校の
小学生にスーツ姿で「ことばは道具ではなく心と知性そのものですから」と、伝えている。
最後の一行を読み終えて、自分の嗚咽に狼狽した。そんな本は滅多にあるものではない。

私が読んだのは2016年7月30日発行の第一刷。2007年のきょう8月1日、70歳で死去。

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