遊、笑う。(篆刻:You)

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遊の十三回忌はさすがに晴れ男らしく、晴れて暖かかった。バイク仲間と学生時代の
友人たちがお墓だけでなく家にも来てくれて、カレーは大人40人分、子ども20人分が
ペロリと無くなった。この4日、命日の前日には鈴鹿の当時の課長さんがお参りに来て
くださり、我々家族もこの満12年でひとつの大きな区切りがついたように感じている。

それは良かったのだが、楽篆堂はその前後、いまに至るまでPCに噛りついて四苦
八苦が続いている。発端は10月の1本の電話だった。大手企業グループが社員の
福利厚生のためにネットで社内販売をするクローズド・サイト。それへの出店依頼で、
アンケートで「ゴール印(結婚祝い)の楽篆堂を」というご指名があったという。うれしい
ことなので出店を決めたが、ゼロからのサイト構築、しかもカートで注文を受ける設定は
初体験。イラストレータというデザインソフトを勉強しつつ、ひと月以上もかかってやっと
出来上がったが。その頃からデスクトップPCが頻繁にストライキを起こしはじめた。
PCが壊れたらすべてが水の泡なので、急きょWINDOWS7のノートPCを購入した。
それが、メールでさえまったく使い勝手が違うのでオタオタ、オロオロの連続なのだ。

遊はゲーム世代だからかMacもイラストレータもすぐに覚えて、なおかつプログラムを
しながらバイクのHPまで作っていたから。オヤジの狼狽ぶりを笑って見ているのだろう。

遊びの、跡。(篆刻:遊)

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長男の遊が鈴鹿のバイクレースで逝ったのは1999年12月5日だったから、1ヶ月
足らずで満12年になる。この27日にはバイク仲間や友人に来ていただいて、身内
だけの十三回忌を予定している。これを機にと、遊の部屋を思い切って片づけた。
あれこれと4日ほどかかったが、28年に満たないとはいえ男の一生の足跡だから。

残したものは、レースのトロフィー、表彰台の写真が載ったバイク雑誌、額に入れた
走行中の写真、そして事故車から外したエンジンなど、バイク関係が多いのだが。
カミサンが作った"U"の刺繍つきの服を着たキューピー、幼稚園の頃に履いていた
キッカーズ、高校でうかった剣道初段の免状、バイク事故で足にギブスをはめながら
一人で押したり引いたりで2階へ上げたソファベッドなども捨てる訳にはいかない。

遊という名前は、好きな漢字ひと文字、かつアルファベットにあるというルールだった。
「遊びをせむとや生まれけむ」からだが、こんなに名が体を表わすとは思わなかった。
子どもの頃から遊びの才能だけは人一倍。名刺も「デザイナー/ライダー」だったから
バイクだけに集中していたと思いきや、サーフボードが4枚、スキーセット、エレキと
アンプなどなど。篆刻は、70点の遊づくしのひとつで、波乗りするような「遊」だが。
遊をよく知るNH氏からの色紙には、「遊具みな 枯れ野に残し ゆきにけり」の句が。

人を、選ぶ。(篆刻:選)

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私は嵐の桜井翔のどこがいいのかまったく理解できない。世間の評判はイケメン、
知性派で、総理にしたい芸能人で1位になったこともあるらしいが、私の感覚では
貧相そのもの。ちなみに、その時島田伸介は4位。世間なんて、そんなものかな。

芸能人なんかどうでもいいが、日本の総理であればそうはいかない。私は代表選の
TV中継を、土間の上りガマチの下で猫がフンをするので、入れないようにする網を
張りながら聞いた。この代表選などはその程度のものだ。自らの党首を辞めさせる
ための三党合意、それを見直すと公言した海江田が1回目でトップになるとは何と
卑劣な集団か。さすがにそれでは国会運営が立ち行かないと、かろうじて逆転したが。

「選」の巽(そん)は、神前の舞台でふたり並んで舞楽すること。それから選ぶ、優れる
の意になったが、あの壇上の5人で神に恥じることのない人間はいたのか。全員が
迷走を続けた内閣の現・元閣僚ではないか。国政選挙ですら、その時の風やムードで
決まる。芸能人の人気と変わるところがない。そうして選ばれた国会議員からでしか
日本の総理は選べない。それがもどかしい、情けない。そのシステムを、もうここらで
根元から変えないと、日本の漂流は止まらない。新総理は「ドジョウの政治」と言うが
たとえが悪すぎる。まさか追詰められたら穴に逃げ込むという予告じゃないだろうね。

鈍くても、きっと。(篆刻:鈍)

鈍
昨夜、風呂上りに寝酒を飲みながらNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」を
何気なく見ていたら、その水戸岡という名に覚えがあった。確か80年代、イラスト
レーション年鑑の常連で、華麗な建築パースを描いていた人ではないのか。しかし、
いまの彼は九州新幹線を造った工業デザイナー。時々映る車内の完成予想図は、
まぎれもなくあの特長あるイラストだった。イラストレーターから工業デザイナーに?

建築不動産の広告をやる知人に聞くと、以前イラストを頼んだこともある彼も、その
変身ぶりには驚いているという。がWikipediaによれば、それはこっちの誤解だった。
彼は元々工業デザイナーで、イラストレーションは身過ぎの業だったのだ。それでも
卓越した技量で、グラフィック社から数冊の本も出している。1988年福岡市の「ホテル
海の中道」のアートディレクションを機に、JR九州の列車などのデザインに関わった。

「プロフェッショナル」は、九州新幹線の全線開通に合わせて3月放送予定だったが、
東日本大震災で延期され、彼が参加予定のイベントもすべてが中止になったという。
彼の子供の頃のあだ名は鋭冶ではなく「鈍冶」。ドーンデザイン研究所の名前も「鈍」
からではないか。「いつかはきっと」とつぶやきながら、ひたすら親子シートのデザインを
描き続ける。「いつかはきっと」という言葉は、震災からちょうど1ヵ月の夜、心に沁みた。

あえて、否定的意見。(篆刻:否)

否
週刊ポスト4月1日号、新聞広告の闇汁のような見出しの中で、内田樹氏の『いまは
「否定的なことば」を抑制すべきだ』が気になった。「内田樹の研究室」というブログに
同じ主旨の発言があったので引用する。「こういう状況のときに「否定的なことば」を
発することは抑制すべきだと思う。いまはオールジャパンで被災者の救援と、被災地
の復興にあたるべきときであり、他責的なことばづかいで行政や当局者の責任を問い
詰めたり、無能力をなじったりすることは控えるべきだ。彼らは今もこれからもその公的
立場上、救援活動と復興活動の主体とならなければならない。不眠不休の激務に
あたっている人々は物心両面での支援を必要としている。モラルサポートを惜しむべき
ときではない。」 内田樹氏は大学教授らしいが、あえて私はこの主張を否定したい。

彼は、国難に対処すべき政府と様々な現場の不眠不休で働く国民の話をない交ぜに
している。パフォーマンスと激昂に揺れ動き、目は虚ろ腰も据わらない首相を肯定的に
認め、モラルサポート(こんな言葉あるの?)したら、どうなる。終戦直後、生き残った
国民のすべてが復興の主体だった。その時、戦前・戦中の体制や価値を全検証して
肯定と否定を明確に分別しなかったことが、この国の現在を曖昧にしてしまったのだ。

篆刻は「否」。不と祝祷の器「サイ」で、神が承諾しないこと。神は時に、強くNOという。

こんな銀行、普通じゃない。(篆刻:普)

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今年の12分の1がもう終わる。日経新聞朝刊の「私の履歴書」、1月は元日本郵政
公社総裁・生田正治氏で、今日が最終回。毎月各界重鎮の生き様、仕事振に感銘を
受けるのだが、今回ばかりはいささか辟易した。最初から延々と自慢話ばかりが続き、
辞めた(辞めさせられた?)郵政公社の話ではいい訳ばっかり。後味は最悪だった。

さて、その郵政民営化だが。先週、この地区の郵便局に行った。ゆうちょ銀行ATMで
銀行に現金を送ろうとしたのだが、これができない。ATMがだめなら窓口と思ったが、
それもダメ。ゆうちょの通帳かキャッシュカードでしか他行にお金が送れない。そんな
馬鹿なと、帰ってからホームページを見たが、やっはりダメ。その画面の上を見れば、
「あたらしい ふつうをつくる。」とスローガン風の言葉があって唖然とした。民営化の
当初は仲畑さんの「真っ向何とか」と勇ましいコピーだったが、「新しい普通」って何?

ゆうちょ銀行と言いながら他行には現金が送れないと、これを書いたコピーライターは
知っていたのか。株式会社ゆうちょ銀行のトップに聞きたい。ゆうちょ銀行に新しい
サービスなんてあるのか。どこの銀行でも出来る普通のことをちゃんとやるのが普通
ですよ。「あたらしいふつう」なんて、そのずっと先の話ですゾ。篆刻は「普」で、人の
ならぶ「並」と「日」。日は日(ひ)か祝器か判然としないが、その意味は「あまねく」だ。

宇野亜喜良さん、のように。(篆刻:亜)

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いつもより早く目が覚めたが、起きて新聞を取りにいった。日経新聞の朝刊小説
『韃靼の馬』が、きょう最終回だから。高樹のぶ子『甘苦上海』に続いての連載で、
辻原登という作家は知らなかったが、日本の対馬、大阪、江戸、朝鮮、モンゴル、
さらに中央アジアへと展開するスケールと、それに緻密に織り込まれた人間の心と
生き方に、毎朝新鮮な刺激を与えられた。そして、宇野亜喜良の挿絵が良かった。

あえて宇野亜喜良さんと呼ばせていただくが、私が大学の頃すでにイラストレーター
としてスターだった。下世話な言い方をすれば、サイケなイラストで一世を風靡した。
改めてWikiで知ったのだが、カルピスの社員で広告・宣伝を担当したそうだから、
業界の先輩で、私が入社しかかった日本デザインセンターのメンバーでもあった。
ときどき週刊誌の挿絵でAquiraxの名を見て、まだ現役、健在なんだと思ったが。

今回は、ただただ圧倒された。男は武士、青年、老人、女は武家の子女から朝鮮人、
ロシア人まで、馬、鳩、そして風景、とにかく毎回何を描いてもすごい。人の表情は
もちろん、風景にまでドラマが描き込まれている。最終回の画には434回の登場
人物のすべての想いがさりげなく込められていた。私のちょうどひと回り上なのだが、
私がクリエイターであり続けるならば、彼は私の道の先の天空にさん然と輝く星だ。

莫山先生の、芯。(書:榊莫山)

莫
仕事場の書棚に女性のヌード写真集があったので尋ねると、「女の人の絵を描くんで
勉強しとるんや。あまり人に言わんといてな」と、莫山先生は照れながらおっしゃった。

1990年、松下電器の《あかり文化2000》という新聞シリーズ広告の撮影取材の時。
「土」という文字を書きながら、「墨はな、乾きながら刻々と表情が変わるんや。
おもろいもんやなあ」と、あの笑顔で屈託がない。滞りなく終わったところで、私は
持参した2、3の篆刻を見ていただいた。「おもろいなあ、エエなあ」と言いながら、
真新しい印譜にさらさらと「コノ印譜 杭州西冷印社デ求メマシタ 莫」と書いて
「これに全部押せたら、また見せてや」と、それを下さった。そのサインが、これ。

その後、新旧とり混ぜて全頁がうまったので、神戸の個展会場で見ていただいた。
また「おもろいな。エエなあ」なので、拍子抜けしたのだが。先生の本にサインを
求める女性が聞いた。「漢字とカタカナで書かれるのは、何故ですか」 先生いわく、
「漢字とカタカナは兄弟やろ」 きょとんとする女性に先生は「それも分からんで
書道しとるんか」とひと言。本を買ったお客さんなのに、何ときつい言葉をと驚いた。

書は誰でも読めるものでなければならない、とやさしく書いたその文字には、強くて
堅い芯があった。書壇を離れて、独り歩きながら手にしたものだった。多謝。合掌

努力しない、生き方。(篆刻:力)

力
三六〇度回転する軸を持て。尊敬は学びの機会を奪う。よいことにとらわれると
悪を生む。他人事は自分事である。嫌なものも自分を通してみる。過度な健康
志向は病である。安全な社会は生き方を弱くする。多様性を求めるとキャパも
広がる。●第五章 「計算しない」から、負けない。・・・計算しないほうが勝つ。
テクニックだけだと行き詰る。出せば出すほど湧いてくる。聞くことで相手が見えて
くる。運を意識するヒトに運はこない。休むも働きの一つ。集中は丸く広げていく。
育てないから上手くいく。文明の刺激は感覚をおかしくする。

以上は、『努力しない生き方』桜井章一著(集英社新書)の目次を書き出したもの。
彼は、麻雀の裏プロで代打ちとして20年間無敗の伝説を持つ男。私としては、
そのすべてにうなずいた。ひとつの反論もない。たとえば、こんな一節がある。
壁を越えようとするから無理が出る。まず壁に乗れ。勇気を出して乗れば、壁は
壁でなく細い道になる。そこでまず一息つくことだ。なるほど、それなら出来そうだ。

ただ、彼は「頑張れば柔らかさを失う」の中で、麻雀の牌を柔らかく打て、という。
牌と体を一体にさせた感覚で下腹から柔らかくする、とある。「する」の後には
「・・・・・・」がついている。これは、やはりイチローや武蔵の極意の領域ですよ。

努力、しない。(篆刻:努)

努
●第一章 「努力しない」から、いい結果になる。・・・力が入ったら疑え。持つほどに
不自由になる。得ることは失うことである。上手な諦め方は生きる力を生む。
壁は上に乗るといい。頑張ると柔らかさを失う。悟らぬうちが花。期待しなければ
苦しくならない。賢くみせるのは賢くない。●第二章 「何もない」から、満たされる。
・・・何もない状態は豊かである。生きるという才能があれば十分だ。仕事が休みに
なる。分析したらそこで終わりになる。アバウトな方が的を射る。「」をつけないことが
格好いい。誇りはうつむき加減に持つ。知識は足すより引いてみる。ゆったりすると
物事を鋭くつかめる。部分だけ正すと元に戻る。意味のないところに可能性が
ある。●第三章 「求めない」から、上手くいく。・・・求めると願いはかなわない。
目標は横に置くといい。わからないことをわからないままにする。マイナー感覚が
あれば自分を見失わない。行く手ばかりを見るのは危ない。自由はルールの
中にある。地面から離れるほど本能は衰える。我慢すれば報われるは錯覚である。
愛は本来不純なものである。熱血はあてにならない。●第四章 「つくらない」から、
いいものが生まれる。・・・つくると嘘が入る。表だけで生きるとおかしくなる。(続く)

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