
今回の篆刻は、篆書体ではなく隷書体。中国・清時代の伊秉綬(いへいじゅ)の
「武」を模したもの。剣道のかなりの高段の先生でも、「武は、武器の戈(ほこ)と
止だから、戦いを未然に防ぐこと」などと、真顔でおっしゃやることがあるが。
この止は歩の略であって、武器を持ち前進すること。武は、まさに戦いなのだ。
運動嫌いだった私が、大学1年の体育を何にするか迷って、結局はウエイト・
トレーニングを選んだ。理由は、着替えがいらないから。週1回、ベンチで仰向けに
なって、1時間弱バーベルを挙げたり下げたり。3月で胸がモコっとなって、驚いた。
小さな頃から虚弱で、あだ名が「アオジロ」だった三島由紀夫が、ボディビルで
筋骨隆々になったのは、誰もが知る話。彼は剣道、空手など武道を熱心に続けた。
切腹をした時、脂が出てはぶざまだからと、腹筋をことさらに鍛えたらしい。
その三島由紀夫が、市ヶ谷の自衛隊で割腹したのが、38年前のきょう。
私とカミサンとその母親は、横浜の木造アパートにいたが、運び込まれたばかりの
嫁入り道具で足の踏み場もない。ラジオから実況が流れて、思わずふとん袋に
座り込んだ記憶がある。結婚式を3日後に控えて、カミサンは前途の波乱万丈を
予感したという。それは、まさしく徒手空拳の戦いの初日なのであった。