
窓の外は、一面の緑。万緑の候、という時候の挨拶があったはずと、広辞苑で
「まんりょく」を引いたのだが、ない。それもそのはず、「ばんりょく」であった。
見渡す限りの緑のことで、草田男の「-の中や吾子の歯生えそむる」の句がある。
篆刻は「緑」だが、白文で赤くなるところを色変換して、「篆彩」と名づけたもの。
視界の無数の緑色から、いくつかをはめ込もうとしたが、自然のグラデーションの
奥深さにかなうべくもなく、これで手をうった。軽い遊びとご笑覧いただきたい。
さて「グリーンマイル」という映画の話。民放の洋画劇場でもやったそうだが、
私は遅ればせながらケーブル・チャンネルで、たまたま見た。グリーンマイルとは
刑務所の独房から死刑執行室へ通じる緑色のリノリウムの床のこと。電気椅子の
執行を見世物にする、消防ホースや拘束着で体罰を科するなど、むごいシーンは
多々あるのだが、敵役の看守と囚人を除いて、死刑囚さえも善意の人々なのだ。
実は無実だった大柄な黒人死刑囚は、本能的に人の善悪を察知し、不治のガンの
病巣でさえ吸い取れる超能力者。刑務所を舞台にしたおとぎ話に違いないのだが、
こんな大人の童話なら、大いに結構。それにしても、日本の映画の薄っぺらなこと。
ひょっとしたら、この日本自体の底が浅いのでは、と万緑の中でため息をつく。