
29年前の9月。広告代理店を辞めて、人に勧められるままに礼文島に行き、
数日後東京に行った。奈良に戻ったのは10月初旬でもう肌寒かったが、
酒向さんの奥さん・みゆきさんから戴いた刺し子の半てんが暖かく、助かった。
酒向さんはNHKのディレクターを辞めてから、長く定職につかず三年寝太郎の
ような暮らし。編集者のみゆきさんが支えた。しかし、ただ惰眠していたのでなく、
インドの神話『ラーマーヤナ』の映画化権をとり、自ら脚本・監督をして長編の
アニメーションを完成させた。ヒンズー教の文化圏では一躍ヒーローになって、
夫婦を国賓待遇で迎える国もあった。その旅の思い出を話すみゆきさんは、
本当にうれしそうだった。酒向さんが、次に企画したのは『クリシュナ』だったが、
まだ完成をしていない。そして、みゆきさんは4年前、74歳で亡くなった。
遺骨の大部分は、彼女の希望通りガンジス河に流したのだが。酒向さんの故郷、
岐阜県に墓が出来て、おととい納骨した。車で3時間弱、身内だけだったが
参加させてもらった。酒向さんは、すでに81歳で、身体も万全とはいえない。
篆刻は「印」。手で人を抑え、仰臥させる形。ふたりを惹きつけ離さなかった
インドとは何か。何回もインド旅行を誘われたが、その機会は無いままだった。