
繰り返しになるが、P&Gのプロダクト・マネージャーMr.Dは、全温度チアーという
商品の全権を任されていたから、戦後のGHQのマッカーサーのようなものだった。
私は言いなりになって、ぶざまなCMを作ったのだが。白洲次郎という男は、
マッカーサーにも「失礼だ。日本人を奴隷扱いするな」と怒鳴りつけた、らしい。
先日、NHKドラマ「白洲次郎」の三部作が完結した。私の手元には馬場啓一氏の
白洲次郎の本2冊があるが、どちらを読んでも解けない疑問があった。彼は
戦争に行ったのか。その答えは第二部にあった。軍の高官に「戦争に行くことは
私の使命ではない」と言って徴兵を逃れている。ゆえに、彼はたとえラスプーチンと
呼ばれても、全身全霊を戦後日本の復興に捧げたのだ、という筋書きに見えたが。
私の中ではプリンシプル、ダンディズム、ノブレス・オブリッジ・・・彼をもてはやす
いくつものキーワードがいっぺんに色褪せた。篆刻は「白」で、風化で白くなった
頭蓋骨の形象。彼の栄光は、膨大な戦死者の上にある。彼自身は自らのことを
多く語らなかったらしいが。徴兵逃れという大罪を抱えて、胸張って語れるような者
ではないことを知っていたからだろう。それならば男として、武士の情けで許そう。
比べるのも失礼だが、私は誰もが嫌がる全温度チアーから、逃げはしなかった。