靴下の、上下。(篆刻:下)

下 朝晩はめっきり冷え込んできたので、夜はたまらず靴下をはく。で、靴下の話。 P&Gの日本初の商品「全温度チアー」のCMは、我がGD社が制作した。 フィリピン人のプロダクト・マネージャーMr.Dがフィリピンなまりの英語で、 矢のようにアイデアをぶつけて来る。我々はそれを必死で書きとめながら、 CMらしきものにするしか、なす術がなかった。それは、天の声だったから。 ふたつ目の商品は毛糸・おしゃれ着洗いの「モノゲン」で、CMはD社が担当した。 生活シーンを切りとったスライス・オブ・ライフで、病院かどこかの待合室が舞台。 ある男の靴下のゴムがゆるんで下がっている。それを見た他の男が、ズボンの裾を 上げて、ゴムのしっかり締まった靴下を見せながら、「ウチは家内がモノゲンで」と 言う。すかさず、ゆるゴムの男が「いい奥さんで!」と嫌味たっぷりに返すのだった。 きっとMr.Dが ”Oh! Nice Wife!!” なんて、お決まりのセリフを言いだしたので、 それを合気道のように、コロッとひねって投げ返したのだろう。それを見て、 私は衆人の前で靴下が破れて、親指が飛び出したように恥ずかしかった。 篆刻は、漢字の大元・甲骨文の「下」で、ものが掌の下にある形。反対の上は 掌の上にものがある。Mr.Dを手玉に取ったD社が上、言うなりになった私は下。
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