
以前、羊の出産直後を見たが、生まれて30分ほどで立上がり、母親を追った。
哺乳類は胎内で充分に育ってから生まれてくるのだが、人間だけはそうではない。
吉田脩二先生の『ヒトとサルのあいだ』で、人間の赤ん坊は予定日に生まれても
10ヶ月の早産であり、未熟児状態で生まれ出てくると教えられた。脳の進化で
頭が大きくなったので、そうしなければ母子ともに危険になるから、だという。
大阪にいる息子夫婦にふたり目の子どもが生まれた。予定日より2週間以上早く、
2,080グラムだったが、幸い母子ともに元気だった。息子と孫が見守るなかで
出産をしたというが、助産婦さんが陣痛のなかで、こんな話をしてくれたという。
「赤ちゃんは自分の意志で、さぁ、生まれようと決める。しかし、そう決めても
母体のコンディションが万全でない時は、それを感じて思いとどまるのだ」と。
ひとり目の時は、息子も私も、男として新しい生命の誕生という事実に当惑した
記憶があるが。ふたり目では、この赤ん坊の意志に感動する余裕もできた。
それにしても母と子の、このような緊密さに、男たちは到底かなわない。
篆刻は、甲骨文の「出」。足の後ろにかかとの跡をつけて、歩行を示す文字。
この子の真の誕生は、10~12ヶ月後、言葉を発し、歩いた時。無事に育てよ。