男子、厨房に。(篆刻:厨)

厨 私は、結婚以来、男子厨房に入らぬ主義を貫いているが、我が家の構造上、 厨房のある土間を通らないとトイレにも風呂にも行けない。カミサンが料理好きで 主義を貫いても支障はない。30代半ばに、広告代理店を辞めて、職業訓練校で 大工の勉強をしたときは、カミサンが友人の花屋を手伝いに行ったので、やむなく 炊事・洗濯・掃除をしたが、献立はカレーや親子丼の繰り返しでしのぎ通した。 さて、ふたり目の孫が予定より2週間も早く生まれて、カミサンは大阪に行ったまま。 残された私は、厨房に入らざるをえず、さりとてワザワザ買い物に行くのも面倒で、 冷蔵庫・冷凍庫にある食材でなんとかやり繰りした。豚肉の生姜焼きや親子丼は まあまあの出来。ひき肉とナスを炒めたが、新しいスチーム・レンジで肉の解凍が よく分からない。冷凍のひき肉をフライパンに入れて炒めてから、その後にナスを 入れたから、ナスが食べ頃になるまでにひき肉は粒つぶコリコリ。不味かった。 ヌカ味噌のキュウリだって、毎日素手でかき回して1本ずつ、文字通りに消化した。 篆刻は「厨」で、正字は廚(くりや)。尌は豆(とう)という足つきの食器を手で持つ形。 カミサンの留守も1週間ほどと分かっていたから、何とかマメに自炊もできたが、 男ヤモメは、やっぱり侘しい、味気ない。で、死ぬならばカミサンより先、と決めた。
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