もし、笑ったら。(篆刻:if)

if NHKの爆笑問題の番組で、東京女子医科大学(早稲田大学連携)先端生命 医科学研究所の細胞シートをとりあげていた。心臓の細胞を培養した薄いシートを 何枚も重ねると心臓になる、という恐るべき研究。太田光が「人間つくれちゃうんじゃ ないの」と気味悪がっていたが。その研究所のある場所は、元フジテレビだった。 このフジテレビに、大学1年の頃、アルバイトに通った。近所の日大芸術学部に 通うお兄さんから紹介された。仕事は視覚効果といって、水、雪、霧、風、火から 背景の電飾までが守備範囲。例えば「三匹の侍」では、太い竹をノコギリで切って テグスで吊り、刀で切ったタイミングで離せば、ばっさり切られたように倒れる。 顔すれすれに飛ぶ手裏剣は、顔の横にテグスを張っておいて、ループを付けた 手裏剣を滑らせる、というような単純な仕掛けもやった。その「三匹の侍」のセットで。 ブルーシートを敷き、発泡スチロールの岩で囲って大きな滝のセットが組まれた。 流れる滝の水はスタジオの消火栓のホースで、その栓の開け閉めが私の担当。 滝の上の岩影でスタンバイする私の背中に、ぽんと何かが当たった。振り向くと、 三匹のひとりが私を見上げて、ニッコリと笑っていた。篆刻は、旧作の「 if 」だが。 もし私が笑みを返したら、彼によって、いまとは違う人間がつくられていただろう。
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