
久しぶりに見た映画の話をしようと思ったら、ポール・ニューマンが亡くなったという。
「ハスラー」「明日に向かって撃て!」「スティング」など、あんなドキドキする映画が
無くなって久しい。わざわざ見に行きたい映画がない。この前が「硫黄島からの
手紙」だから、かれこれ2年ぶり。4時間以上も暇をつぶさなければならないので、
映画「ウォンテッド」を見た。見たら、それはそれで面白い。息もつけないほどだ。
肥満の女性上司にいじめられ、恋人を寝取られるダメ男が、ギリシャ神話の時代から
続く暗殺団の非情で過酷な訓練を受けて、驚異的な殺人能力を発揮するようになる。
全編、これコンピュータ・グラフィックで、撃ち合ったピストルの弾が、正面衝突して、
ベチャッとひしゃげる。あれ、どこかであった話だなあ、と思いはじめた。うん、そうだ、
中島敦の小説『名人伝』だ、と気がついた。こちらは、中国の弓の名人の話だが。
名人伝では、師を狙った矢とそれを察知した師の矢が当り、共に地に落ちる。
名人伝の瞬きしない訓練は妻の機織(はたおり)の下に潜り込むが、ウォンテッドは
暗殺団のアジトの紡績工場で、猛スピードで動くシャトルをつかむ。原作、原案、
脚本、皆カタカナが並んでいるが、名人伝が下敷きに違いない。篆刻は、「映」。
央は首かせをはめられた人の象形だが、ハリウッドもネタ探しに苦しんでいる。