文字は、お宝。(篆刻:其蜩)

其蜩 テレビの「何でも鑑定団」をよく見る。鑑定依頼品が本物か偽物か、自分の直感を 試すのは面白い。その鑑定法に、「この時代、この作家はこの印を使っていない。 だから偽物」というのがある。贋作を作る人、それを売る人、騙されて買う人が いかに多いか、なのだが。篆刻の世界にも贋作がはびこっている。いや、正確に 言えば、多くの篆刻作家が懸命に贋作づくりに励んでいるのでは、と思える。 篆刻の解説書には決まって「時代の違う書体を混ぜてはいけない」とある。 例えば最も古い甲骨文と次の時代の金文を混在させるな、ということ。これは 甲骨文の時代にはまだ金文が無い、だからあり得ない、という贋作鑑定式の 考え方。なぜ逆に、金文の時代には甲骨もあった、だから混在して構わない、と 考えられないか。篆刻の世界が懐古・守旧の弊害に侵されているからなのだ。 篆刻は、「其蜩(きちょう)」。『花ごよみ』の守田蔵さんの俳号で、「その日暮らし」の 洒落とか。頼まれてもいないのに押し付けで刻ったもの。「其」は甲骨文で、「蜩」は 周(彫飾した盾)の金文図象から。日本は、漢字、平仮名、カタカナ、アルファベットと 無尽蔵な文字資源を持つ稀有な国。その国で、篆刻に違う書体を混ぜるなとは 了見が狭すぎる。と、蔵さんに負けないその日暮らしのなかで、私は考えている。
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