雛は呼び、親つつく。(篆刻:?啄)

啐啄
玄関の軒下のスズメの雛は、1羽が圧死していたが3羽は巣立ったようだ。 隣の縁側のツバメの巣からは、3日続けて割れた卵の殻が落ちていた。 最初の卵の殻は、まるで3次元測定器で測ったようにきれいな割れ方だったが、 だんだん雑になった。脚立に乗って、手鏡で覗けば、まだ羽毛もなく丸裸の3羽の 雛が団子になっている。篆刻は、「?啄(そったく)」で、?は叫ぶ、呼ぶ、啄はつつく。 ?は卵の内から雛が鳴いて生まれ出る意を告げること。啄は、すかさず親鳥が 殻をつついて雛を出すこと。?啄同時ともいい、逃すべからざる絶好の機会。 禅宗では、悟りかかった修行者とそれを助ける師との呼吸や気の合一すること。 で、話は変わるが。何年も前に伊豆から送られて植えたままの日本水仙が、 今年は葉ばかり伸びて、花が少なかった。そこで、いよいよ球根を掘り上げたら。 球根に混じってアブラゼミの幼虫が出てきた。安眠を破ったことを詫びながら、 プラ容器に土と入れておいたら、自力で土の上まで出てきた。それならばと、 南天の木にとまらせる。ゆるゆると葉の軸に移動する。が、数時間後には 姿が見えないし、抜け殻もない。産卵から5年とも7年ともいう羽化のその時、 セミは土の中で呼び、私は土を掘り、かくして飛翔していったのだと、信じよう。
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