湘南の浪、高し。(篆刻:浪)

浪
ロードスターは、湘南海岸で富士山を見ながら走るには絶好だった。奈良ナンバーは、 似合わないけど。東京の広告代理店と契約、事務所も大阪堂島から東京神田へ移った。 当初は事務所で寝泊りしたが、ひとり暮らしの経験がほとんどない私は悲鳴をあげた。 奈良の家には友人のK夫妻が住んでくれることになって、鎌倉に近い逗子Mに カミサンと住むことにした。生まれも育ちも横浜の海彦が、ついに海辺に戻った。 犬のトノ、猫のテンテンもマンション暮らしになった。ベランダからユーミンのコンサートが 見えた。隣の魚屋でとれとれの魚が買えた。ハーバーでは大きなタコやヒラメが 網にかかった。絵に描いたような湘南の暮らし。だが、それほど長くは続かなかった。 元はヨットオーナーたちのリゾートマンション。そこに我々のような定住組みが混ざった。 管理組合と住民のもめ事に巻き込まれた。住民の中でも、ゴタゴタがはじまった。 うんざりとする日々。軽いうつを自覚する。そんな重い気分に、追い討ちがかかった。 10年以上も前、広告会社の仲間からかぶった連帯保証。のらりくらり小額を返しお茶を 濁していたが、延滞損害金なるものが元金を超えた、という通知。家を処分するなどで 一括返済するならば、返済総額を半分にしてもいい、という妙な条件を出してきた。 篆刻は「浪」。良い水と書くが。湘南は、天気晴朗なれど、波はとてつもなく高かった。
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