出来たけれど、悲しいCM。(篆刻:悲)

悲
王さんのバットにボールが当たるまでは撮れた。次は、ボールが水しぶきになって、 四方八方へ飛び散るカット。垂直に立てた管の先に360度細かな穴を開けて、 水を噴射する。合成だからブルーのシートを敷きつめる。カメラは、その管の真上、 天井から下向きにセットした。そう、例の15倍のハイスピード。修理済で満を持す。 カメラが回る。水が噴き出る。「ウィーーーーーン」を聞き終わって、皆が見上げる。 「カメラ、オーケーです」 「水の方もオーケーです」 「ハイ、本番いきます」 カメラが回る。水が噴き出る。「ウィーーーーーン」 皆が見上げる。 カメラが回る。水が噴き出る。「ウィーーーーーン」 皆が見上げる。 カメラが回る。水が噴き出る。「ウィーー・・・」 皆の耳はダンボで、目はトンボ。 と、パラパラパラッと黒いものが降ってきた。カメラが巻き込んだフィルムの破片だ。 それでも何とか使えそうな水滴カットを探して、王さんの打撃カットと合成する。 打ったボールは消えるから、ひとコマひとコマ、ボール1個分の背景を移植した。 そうして完成したCMは、読売新聞が日曜版のコラムでも紹介してくれた。 しかし、私のいる関東で見ることができない。流すのは、ペプシが強い中部地区だけ。 家族は犠牲にするが、テレビで見られる仕事のはず、なのに。これは、悲しい。
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