漢字の成り立ち、NOW。(篆刻:字)

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私は篆刻を彫る前、すでに彫った文字でも白川静先生の『字統』(平凡社)で字源を
再度確認して原稿をつくる。だから『字統』は手引きであり、教科書なのだが。それが
30年前に停止した考証であり、新しい資料によって否定されたことも多いと知った。

『漢字の成り立ち』(落合淳思、筑摩選書)は、字形(視覚)を主体として字義(意味)
を伝達するのが漢字の強みで、白川を字形からの字源分析法を確立したと高く評価
するが「白川は1960年代の情報をほとんど更新しないまま研究を続けた」「古代
文字で確認できない呪術儀礼や原始信仰と解釈するものが多い」「各資料の時代
差をあまり重視していない」「甲骨文字の意味をあまり重視していない」と容赦ない。
だが落合の本意は過去の研究の批判的継承であり、長く停滞していた字源研究の
最先端を目指し、公開されたすべての甲骨文字のデータベース化にも着手している。
『漢字の成り立ち』は、漢字の原点に興味あるすべての人に読んでほしい名著である。

以前、白川先生の娘さん・津崎史さんからのお便りに「父の説」とあって、その謙虚な
姿勢に感心した。私とて100%正しいなどと思っていないのだが。それでも字源研究
で人知の及ばない自然や神への畏敬を強く意識する「白川説」を、私はこれからも
篆刻制作の基盤に置きつづけようと考えている。文字はひとつのロマンなのだから。

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