鷹、空に揚がる。(篆刻:鷹揚)

鷹揚
疲れすぎて浅い眠りから醒めた朝。離れに行くと、毛布の中は空だった。 鷹は歩いてどこかにもぐり込んだか。いや、廊下の奥のかごの上にとまっていた。 首を後ろに向けて、しっかと私を見つめる。確かに、生き返ったのだ。 新鮮な空気を吸わせてやろうと、抱いて庭に出た。腕の上で、おとなしい。 猫が膝に乗ってきたが、おびえる様子もない。濃い黄色の眼には力があった。 もしかしたら飛べるのではないか。鷹を腕に乗せて、高く空へと伸ばす。 体は腕にあずけながらも、首を立てて、空を見ている。腕がしんどくなった頃、 鷹は飛び上がった。が、上の道沿いの電線にとまったままで、動かない。 それで力を使い果たしたのなら、と心配だった。カミサンと鷹を見上げながら、 道端で朝食を食べた。再び力を蓄えたのか、鷹は飛び去っていった。 篆刻は「鷹揚(おうよう)」。鷹が空をゆったりと舞うように悠然としていること。 鷹狩は「うけい(ひ)狩」と言って、神が願いに応じるか否かを問うものだから、 「応」の旧字に鳥と書く。鷹は神の鳥なのだ。その鷹も、幼鳥ながら偉かった。 私を信じきって、私の気を受け止めて、それに応える意思として、蘇生した。 その後、カミサンは、夕方の犬の散歩で、あの電線にとまる鷹に何度か会ったという。
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