![莫](//blog-imgs-35.fc2.com/l/u/c/lucktendo/image-baku.gif)
仕事場の書棚に女性のヌード写真集があったので尋ねると、「女の人の絵を描くんで
勉強しとるんや。あまり人に言わんといてな」と、莫山先生は照れながらおっしゃった。
1990年、松下電器の《あかり文化2000》という新聞シリーズ広告の撮影取材の時。
「土」という文字を書きながら、「墨はな、乾きながら刻々と表情が変わるんや。
おもろいもんやなあ」と、あの笑顔で屈託がない。滞りなく終わったところで、私は
持参した2、3の篆刻を見ていただいた。「おもろいなあ、エエなあ」と言いながら、
真新しい印譜にさらさらと「コノ印譜 杭州西冷印社デ求メマシタ 莫」と書いて
「これに全部押せたら、また見せてや」と、それを下さった。そのサインが、これ。
その後、新旧とり混ぜて全頁がうまったので、神戸の個展会場で見ていただいた。
また「おもろいな。エエなあ」なので、拍子抜けしたのだが。先生の本にサインを
求める女性が聞いた。「漢字とカタカナで書かれるのは、何故ですか」 先生いわく、
「漢字とカタカナは兄弟やろ」 きょとんとする女性に先生は「それも分からんで
書道しとるんか」とひと言。本を買ったお客さんなのに、何ときつい言葉をと驚いた。
書は誰でも読めるものでなければならない、とやさしく書いたその文字には、強くて
堅い芯があった。書壇を離れて、独り歩きながら手にしたものだった。多謝。合掌