莫山先生の、芯。(書:榊莫山)

莫 仕事場の書棚に女性のヌード写真集があったので尋ねると、「女の人の絵を描くんで 勉強しとるんや。あまり人に言わんといてな」と、莫山先生は照れながらおっしゃった。 1990年、松下電器の《あかり文化2000》という新聞シリーズ広告の撮影取材の時。 「土」という文字を書きながら、「墨はな、乾きながら刻々と表情が変わるんや。 おもろいもんやなあ」と、あの笑顔で屈託がない。滞りなく終わったところで、私は 持参した2、3の篆刻を見ていただいた。「おもろいなあ、エエなあ」と言いながら、 真新しい印譜にさらさらと「コノ印譜 杭州西冷印社デ求メマシタ 莫」と書いて 「これに全部押せたら、また見せてや」と、それを下さった。そのサインが、これ。 その後、新旧とり混ぜて全頁がうまったので、神戸の個展会場で見ていただいた。 また「おもろいな。エエなあ」なので、拍子抜けしたのだが。先生の本にサインを 求める女性が聞いた。「漢字とカタカナで書かれるのは、何故ですか」 先生いわく、 「漢字とカタカナは兄弟やろ」 きょとんとする女性に先生は「それも分からんで 書道しとるんか」とひと言。本を買ったお客さんなのに、何ときつい言葉をと驚いた。 書は誰でも読めるものでなければならない、とやさしく書いたその文字には、強くて 堅い芯があった。書壇を離れて、独り歩きながら手にしたものだった。多謝。合掌
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