森日出男さんは、うつ病が治った時にお世話になったアルチザンの社長だったが、
その会社とは上下関係が嫌いな森さんが考えだしたフリーばかりの株式会社だった。
家賃、電気代、事務員の給料など必要経費を引いた残りをそれぞれが給料として
取ってしまうので、会社の利益が毎年プラマイゼロ、税務署が困る変な会社だった。
焼き鳥屋で挨拶兼面接みたいなことをしたが、基本的に来る者は拒まず、去る者は
追わずだったから、森さんからはイエスもノーも聞いた覚えがない。森さんの紹介で
大きなプロジェクトをもらい、結局はそれを持って独立した時だって、良いとも駄目だ
とも言わなかった。森さんはまるで宮崎駿のアニメの、霧の森の中の湖のようだった。
でも、森さん。深く、広く、大きな湖のような心で、関わったすべての人を受け入れて、
何があっても許して、すべてを飲み込んだのだろうけれども。誰からも敬愛されて、
だからお別れの会にあんなに多くの人が集まったのだけれど。まだ70歳そこそこじゃ
ないですか。背中が痛いから整形外科に通ったのに治らない。あんまり痛いからと
近所の医者に行ったら、「大変だ」と病院に搬送されて、末期のガンだったなんて。
迷惑をかけたばかりで、何の恩返しもできなかった私が言うのもおかしいけれど、
人が善いのにも程がある。死んだら、あなたの夢も、見果てぬ夢になったんだから。
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見果てぬ、夢。(篆刻:日出男)
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