寿信さんの、住所印。(篆刻:寿信)

201672816230.gif 喜多村寿信さんの住所印には、往生させられた。弟さんからの依頼で「俳句を やるので」と名前を彫らせていただいたのだが。まず、これに苦しんだ。自分では 80点をやっと超えたと思い、彫ったのだが。その礼状の住所印が素晴らしかった。 軽妙にして洒脱、しかも深淵。こんな住所印を持つ方に、あんな篆刻を送ったことを 悔いたが。「寿信」の印は、いずれ再刻させてもらおうと、自分の中で勝手な整理を して。自分の住所印が無かったから、寿信さんの住所印を目標にあれこれ試みた。 結局は足元にも及ばず、「暮らしの手帖」まがいの書体でお茶を濁すことになった。 東京の個展に来てくださり、会社を退いたので「これは名刺代わり」といただいたのは 『刑事コロンボ』の文庫本。「翻訳:喜多村寿信」に、またまた驚かされた。CM界では 大先輩と聞いていたが、もうこれは敵わない。住所印は、ご自分で書いたものを 彫ってもらったと知って、ただ平伏するしかない。そんな寿信さんが暮れに亡くなった。 すっかり気落ちした弟さんに聞くのもはばかられるので、検索した。ちょうど私より 10歳上。レナウンの、あの名作CM「イエイエ」を手掛けている。大林宣彦の映画に 役者としても出て、演劇界でも活躍した多能の方だった。何で、そういう人が70歳 半ばでこの世界から消えてしまうのだろうか。消えてはいけない人が、消えていく。
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