壽屋の、開高さん。(篆刻:壽)

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『壽屋コピーライター 開高健』(たる出版)という本。これは、読まずにはいられない。
開高健は小説家を熱望しつつ苦悶する最中、子どものミルク代のために宣伝文案を
書いて生涯初の原稿料1枚500円を手にする。それを渡したのは佐治敬三。それが
機で壽屋の社員だった妻・牧羊子と開高のトレードが成立する。それで開高は「広告人
即小説家」であることを運命づけられ、開高と佐治の稀有ともいえる交流も始まった。

著者の坪松博之氏はサントリーの広報部で編集の方だが、開高の広告と小説を
合わせ鏡のように時代を追いつつ解説し、随所で関わりの深かった人々の言葉を
交えながら、人間・開高健の深く厚い肖像を浮かび上がらせていく。多くの人々の
中でも、やはり佐治との「兄弟のようだが、兄弟でもこうはいかない」ほどの関係こそ、
開高を開高たらしめたことを強く印象づける構成は見事。キーワードは「水仙」だ。

開高はベトナムに疲れて訪れた越前で、地中海、シルクロードを経て越前岬にたどり
ついた水仙に自身を重ね合せたようだ。お別れの会には3千本の越前水仙が用意
され、納骨式法要にも球根の水仙が届けられた。佐治はその球根を持ち帰り、大阪の
自宅に植えた。「開高は佐治に沢山の言葉を届けていた。最後に開高からもたらされた
メッセージ、それは白い水仙の花であった。」「佐治は水仙に語りかけていたのである。」

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