幸せの、カタチって・・・。(篆刻:幸)

幸
個人印の注文をいただいたら、印に添えて、為書きというものをお渡ししている。 半紙の半分、右上に「為○○様」と書いて「無為天成」の関防印をおす。ここから中は、 楽篆堂の世界、というまあ結界のようなもの。印をおして、クルッと筆で丸く囲む。 その下に、印にした文字を楷書で書いて、それから文字の語源や意味を書くのだが。 はてさて、この意味をそのまま書いてもいいものか、と悩む漢字が少なくない。 たとえば、この「幸」。白川静先生は、拷問の手かせの形である、と断言される。 刑の執行にも報復にも、幸があるでしょう、と。それがなぜ、まったく逆の意味に なったのか。中間段階として、幸は僥倖(ぎょうこう)で、思いがけない幸運のことだった という。手かせから、偶然の幸せ、そして幸運へ。さらには天皇の旅行、行幸にまで。 幸とは、地獄からはい上がって、幸運を極めた、数奇な運命の漢字だったのです。 で、この篆刻。かなりのデフォルメに見えても、古代の文字、手かせの形をむやみに 変えてはおりません。直線は、場合によってうねることもあり、弧を描くこともある、 という約束ごとを大胆に実行したまでですが。これを阪急デパートで展示した時のこと。 あるご婦人が、まじまじと見入っている。そばの私に言うともなく、つぶやいた。 「幸せって、やっぱり、あのカタチ・・・」
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