春よ、来い。(篆刻:春)

春
12年前のきょう、1月17日。夜中に、犬がはじめてベッドに乗ってきた。 午前5時46分、家全体が揺れて、目が覚めた。4人の家族は、無事だった。 すぐつけたテレビも、はじめは被害の大きさをとらえきれてはいなかった。 しかし、時間がたつにつれて「とてつもない地震」だと知れた。止めどなく流れる ニュースに、一瞬だったが、見慣れた「大丸」のゆがんだ看板が映った。 休日明けのその日は、好評だった神戸大丸のシリーズ広告の2年目のために、 新デザインのプレゼンだった。昼前、やっと宣伝課長のMさんに電話がつながる。 「それどころではない、神戸の大丸が存続できるかどうか」と聞いて、消沈した。 それでも、その年の4月、店は被害の少なかった部分だけで、営業を再開する。 大晦日、神戸新聞朝刊に、神戸の大丸4店連合で1ページの新聞広告を出した。 ビジュアルにかえて、ヘッドコピーの「春よ、来い」を、私自らの筆で大きく書いた。 「街は姿を変えてしまったけれど、この神戸が好きだったことを実感しました。 季節は寒かったけれど、心がどんなに暖かいものかを知りました。」と書き出し、 「さあ、みんなで、来年へ。春へ。」で結んだ。いくつかの喫茶店などが、この広告を ガラス窓に貼っていた、と聞いた。篆刻は「春」。動く、輝くという意味がある。
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