5:赤勝て、白勝て。

20149916139.jpg 「緩急(45?45ミリ)」
中国の篆刻作家は、あまり赤い印泥を使わない。国中に赤が氾濫しているのに、こと篆刻となると赤なんて子どもっぽいとか言って、茶、褐色を使う。日本では、やはり赤系が主流で、私も朱がかった「光明」か、紅がかった「美麗」を使っている。日本人の赤好みには、国旗の白地に赤くが深く影響しているのかもしれない。

篆刻は、文字以外を彫って押したとき文字が赤になる朱文と、文字部分を彫って押すと文字が白くなる白文の2種類だが。私は、いつ頃からか朱文と白文を混ぜる朱白文を楽しむようになった。四角なら左右を、長方形や自然石なら上下に朱と白を配する。4文字の四角い作品では、朱白を市松にすることもある。注文印でも朱白文のご希望がときどきあるが、他の篆刻作家さんで朱白文はあまり見かけない(ようだ)。

さて、この「緩急」。普通なら右の緩を朱文、急を白文でほど良く収めるのだが、ふと糸ヘンを縦割りして朱白にできないかと思いついた。急の細く白い枠を糸の半分の白文にすることで、帳尻は合う。もちろん、このテの試みは紙の上の白黒のデザインだけでなく、画像ソフトで赤白にして仕上がりを確認をしてから彫りはじめる。糸が朱白になるのがポイントだから、それ以外はケレン味を加えず、淡白にした。

いま思えば、展覧会が迫った苦しまぎれの思いつきだったかもしれない。成功か失敗かは分からないが、額装したこれを買ってくださった方がいたから、一応成功と考えよう。篆刻は印泥の赤と紙の白で創る世界。赤と白のバランス、せめぎ合い。赤勝て、白勝て。いや、赤勝て、白も負けるな。篆刻は見た目はシンプルだけど、言葉の意味や字源の物語が加わって深度が生まれる、そんな大人の遊びです。

 

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