芥川賞の単行本を買ったのは久しぶり。『abさんご』は受賞作のそれが横書きで、
受賞前の作品群は縦書き。いわゆる表1と表4の真ん中に「なかがき」がある。
表4の帯を見て驚いた。「前代未聞のリバーシブル本!」だって。何が前代未聞な
ものか。私が5年前に制作したクラボウの『創業記念』小冊子は、事業部の歴史
《クラボウ烈伝》が横書き、二代目社長・大原孫三郎の《やる可(べ)し、大いにやる
可し。》が縦書きで、真ん中の見開きに社長の挨拶があるから、まったく同じなのだ。
では、それが私の独創かといえば、そうではない。写植のモリサワが1983年から
2002年まで発行した季刊PR誌『たて組みヨコ組』こそが原型。アートディレクション
だけでなく編集企画までを田中一光と勝井三雄が担当したから、尋常ではない。心
あるデザイナーなら知っていて当然の印刷物。文芸春秋の担当が知らずとも、また
装丁のデザイナーが知ってか知らずか。結果的には史上最高齢という記念すべき
出版物を辱めないのか。こんなことで書きたいことが書けなくなったが。1963年の
「毬」、1968年の「タミエの花」、1968年の「虹」は、どれも暗い少女のこころの話だが、
透明感があって好感が持てた。さて2012年の「abさんご」は観念的にすぎ、それを
作者が知っているから、こんな読みにくいひらがな交じりにしたとしか思えないのだ。
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