空調の、空振り。(篆刻:空)

空
大阪・茶屋町の事務所は、エアコンが自前だったが、移転した堂島のビルは、 天井埋め込みのエアコン付き。外したエアコンは家の土間に置いていたが、 捨てるのはもったいない。家電店に取り付けを頼んで、全部が土壁だと話したら、 まず下見をと、大阪から業者が来た。歳の頃は、30代半ばだったろうか。 ここはどうか、あそこに付けられるか、とあちこち見てもらった後、彼は言った。 「こんな家に、エアコンなんて付けちゃだめです」。ア然とする私に、続けて言う。 「僕、こういう家があこがれなんです。いつかは、こういう家に住みたいんです。 だから、こういう家にエアコン付けて欲しくないんです」。横でカミサンも、 「ほうらネ」という顔をする。エアコンは止めにして、お茶を飲みながらの話。 メカ、それもモデルガンが好きで、アメリカに勉強に行ったこともある、という。 それじゃあと、壊れたモデルガンをみてもらう。1時間以上もかけて、修理完了。 出張代、交通費など一切いりませんと、爽やかな風のように去っていった。 残されたエアコンは、近所にもらわれた。かくして、夏の夜もガラス戸を閉める、 網戸なし、風呂上りには扇風機(さすがに最近はその出番が増えたが)という ライフスタイルは、25年間変わらない。篆刻は、「空」。空調、空振りの一席。
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