光で、浮世離れ。(篆刻:光彩陸離)

光彩陸離
とうとう奈良も梅雨入りをした。この火曜日の夕方、空気が妙に湿っぽくて、 梅雨が近いことを感じたのだが。その夜、「蛍が乱舞して、幻想的!」という 電話をもらった。すぐに車で向かったのは、京都の県(?)境に近い広岡町。 橋から木津川の方を見れば、葦の中から無数の蛍がわき上がって、悠揚たる リズムで点滅する。奥行きある闇の深くまで続く光は、夢幻そのものだった。 ここ狭川にもどる川沿いの大きなカーブで、こんどは左右のパノラマを堪能。 しからばと大柳生に向かう谷川沿いを走ってみると、杉木立の隙間にも、 いくつもの光がゆらぐ。小1時間の蛍めぐりを終えて、家に着いたのだが、 家の前の川にもいたことがあるのを思い出して、ハザードを点滅させてみる。 出てきた、蛍が飛んできた。数えれば、4匹。ここにも、まだ蛍はいるのだった。 篆刻は「光彩陸離(こうさいりくり)」。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』で知った言葉。 ただ光彩が美しいではなく、竜馬の才気が他に抜きん出ている形容だったと思う。 篆刻を初めて間もない、右も左も判らないころの習作。光彩陸離とは正反対の 出来なのだが、蛍がいる鄙(ひな)じみて、まあよかろうと。この殺伐たる憂き世で、 蛍が見られるという贅沢。この地の自然の豊かさは、まさに光彩陸離なのだから。
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