花に、微笑む。(篆刻:拈華微笑)

拈華微笑〔新〕
「ハスが咲いてる!」というカミサンの声で、はね起きた。群青の空の下、 逆光の中で、ハスは咲いていた。いま、いとけない小魚を掌ですくい上げたような、 やさしい開き加減。花びらの縁は、淡い桃色で、花芯にむかって白く消えていく。 のぞき込めば、大きな黄色い円を囲んで、白い無数の粒たちがひしめいている。 「華は半開で看る」という詩は、まさにこのことを謳ったのだったか。 篆刻は、「拈華微笑(ねんげみしょう)」。花を手に微笑むで、この日のために 用意しておいた。霊鷲山で天上界の神・大梵天王が、お釈迦さまに金波羅華 (こんぱらげ)という花を献上して、説法をお願いした。お釈迦さまは、それを 手に取って、百万の人と神とに黙って差し出したが、皆その意味を図りかねた。 ただひとり迦葉尊者が破顔微笑したので、仏法のすべてを授けたという話。 以心伝心といい、不立文字という。真理は文字や言葉では伝えられない、 というむずかしい話らしいけれど。赤い花は赤い。黄色い花は黄色い。 ただきれいだなあと、思わずにっこり微笑む。そんな曇りのない素直さを 失いたくないよね、というお釈迦さまからのメッセージだと思いたい。ちなみに、 金波羅華とは金のハスの花だけど、桃色のハスだって、ぴかぴかに光ってます。
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