香る、庭。(篆刻:香)

香
いくら鼻の利かない私でも、いま庭に出れば金木犀(きんもくせい)の芳香に 包まれる。朝夕が冷え込んで、さあ本格的な秋になる、という香りのシグナルで、 四季の節目ならではの至福。これを都会の子どもが「トイレの香り」と 覚え込んだとしても仕方がないけれど、金木犀にしてみれば迷惑千万。 どんな香りも科学的に合成できてしまう。それって、はたして幸せなことなのか。 「笑えるとしか言いようがなく、しかも記憶に残り、人々を考えさせる業績」に贈られる イグ・ノーベル賞。今年の科学賞は、牛糞からバニラの芳香成分「バニリン」を 抽出した日本人女性だった。本家のノーベル賞受賞者たちがためらいながら そのバニラアイスクリームを口にする映像がニュースで流れて、笑いをさそった。 牛糞と聞かなければ、ただおいしいで済んだだろうに。知、かならずしも幸ならず。 篆刻は、「香」。祝詞を収める器・曰(えつ)に黍(きび)を置いて神を祀ること。 黍は、酒の原料で、酒は芳香を放つ。神に供えるものは香りを第一とするが、 神にすすめるは、その芳香そのものではなく、それを供える者の徳の芳しさである、 と戒める古書もある。お賽銭あげたからご利益ちょうだいと願う若い人が、 匂い(臭い)をかぐことをごく自然に「におう」と言う。知、かならずしも益ならず。
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