常という、布。(篆刻:常)

常
注文の個人印が出来上がった時、印存(為書き)にその文字の意味を書いて お渡しするのだが。そのままでは書きにくい漢字がある、という話を以前にした。 たとえば「幸」。白川静先生の『字統』には、元は拷問の手かせの形だとある。 その後、僥倖(ぎょうこう、思いがけない幸せ)の意味になり、ついには 天子のことに用いられるようになった。当然、書くのは後半の部分になる。 コピーライター兼篆刻家としては、まずもって漢字の意味を大切にしたい。 だから、初めての漢字は、かならず字源を調べる。たとえば、この「常」の場合。 本名は「つね子」さんだが、あえて漢字の常を希望された。「巾」は布で、 「常」は一定の巾の布のこと。「尚」は光の入る窓「向」と神気の現れる形の「八」。 古代、丹精して織った布は貴重で、神の降る依り代、だったのではないか。 これには、私も驚いた。なぜなら、つね子さんは、京都の着物商の奥さま。 この名が付いたときから、それは運命づけられていたのかもしれない。 お子さんも兄妹でキモノ店をされている着物一家。しかも、ご主人は光夫さん。 印とともにそれを書き送って、おおいに感激されたことは言うまでもない。 彼らが人一倍の愛情を注ぐ布、着物には、きっと神が降り、神が宿っている。
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