別に私はそれを研究している訳ではないし、何かでの聞きかじりなのだが。
死生学のアルフォンス・デーケンという人やホスピスケアの先駆者である
柏木哲夫さんによれば、ある死が契機で生み出される大事なもののひとつに
「和解」があるという。たとえば、対立やすれ違いなどで不仲だった家族が
謙虚になったり許しあったりして、改めて家族としての絆を取り戻すというのだ。
現に私はごく身近で、そんな話を聞いた。そのお嫁さんと高齢で病気がちの
お義母さんは、仲が良くなかったのだが。お義母さんが息子の車で病院へ行く時、
嫁に言った。「いろいろ世話になった。ありがとう」。お義母さんが亡くなったのは、
その数日後。何年間もともに暮らしながら、心が通いあったのがたった数日間、
といえばそれまでだが。時間の長短を超えた、和解の深さと思うべきだろう。
篆刻は「和」で、軍門の標識である「禾(か)」と、和議に際しての神への誓いを
入れる器「サイ」。家から死への旅に出る門口で、恐れと悲しさに占領された
その心の奥深くから湧きあがった「ありがとう」のひと言は、神や仏をさておいて、
人間の心の底にある真や善を信じさせてくれるに充分なものなのだが。
しかし、それが死という局面を迎えたから生まれたというのは、やはり悲しい。
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和解の、時。(篆刻:和)
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