苦厄の、一切を。(篆刻:度一切苦厄)

度一切苦厄
ここ数日、ラッパ水仙が満開になっている。それは、30年以上も昔なのだが。 私たちは横浜の京浜東北線山手駅にすぐの借家に住んでいた。その大家さんが お花の先生だったからか、さほど広くない庭にもかなりの種類の草木が 植えられていた。冬の終わり、花壇のすみに植えた覚えもない水仙が芽を出した。 3月31日にはつぼみがひとつ大きくふくらんで、咲かんばかりになった。 その夜、大阪の友人からの電話。奥さんが子どもを連れて自殺した、という。 正月には、家族で来てくれて、同じ年頃の私の子どもと遊んでいったのに。 水仙は、彼女の残した命かとも思えた。翌日、水仙を切り、つぼみを薄紙で包んで、 大阪に向かい、お棺に入れた。彼は東京に転勤になり、数年後には再婚した。 子宝に恵まれ、出世もしたのだが。いまは、ガンと戦う日々を送っている。 いま、私の知る何人かがガンになっている。しかし、私にはなすすべがない。 何を言っても救いにならないのではと、言葉もない。せめてもと、昔彫った 『篆刻・般若心経』の55顆を楽篆堂のホームページに載せた。篆刻は、 そのひとつ「度一切苦厄」。観世音菩薩は、皆空と悟られて「一切の苦厄を度し たもう(救う道を示された)」。「無有恐怖(恐怖もない)」の一節もあるのだが。
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