甘い、雨。(篆刻:甘雨)

甘雨
奈良市内に遅れること1週間ほどで、東部山間もいよいよ染井吉野が満開に なったが、きのうは強い雨に叩かれた。曇り空に、花びらが下を向いている。 この花曇りを養花天(ようかてん)、花に降る雨を養花雨(ようかう)と呼ぶと 知ったのは、日経新聞の「春秋」欄。その中で、養には風雨の意味もあると 書いているけれど、正しくは日光・雨露など自然の恵みの意味、とすべきだろう。 楽しみにしているメールマガジンがある。『美人の日本語』の著者、山下景子さんの 「夢の言の葉」。月曜から金曜まで、美しい日本語をそっと手のひらにのせて、 やさしく差し出してくれる。朝一番、迷惑メールを屑カゴに捨てて、明窓浄机の 心境で読むのにおすすめだが。きょうは、お釈迦さまの誕生日にちなみ、「甘雨」。 草木をうるおし、成長を助ける雨、天の恵みの雨で、慈雨ともいうと教えてくれた。 あるある、私の習作にも「甘雨」があると、引っぱりだしたのが、これ。 水野恵著『印章篆刻のしおり』の巻頭を飾る「天皇御璽」(大和古印)の端正な姿に 見惚れた勢いで、55ミリの石で真似てはみたものの。雨がそれこそ涙雨に 見えるほど、無残な結果。「無礼者、不届きにもほどがある、下がりおろう」と 門前払いを食らって、しっぽを巻いた。さすがは、印章の頂点。甘くはない。
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