亀は、どこにいるか。(篆刻:亀図象)

亀・図象
先々週の土曜日。久しぶりにドライブをした。この印を手渡すために。 京都・和束から宇治田原へ、万緑のなか笹百合の蕾みを横目に、山越え。 そして滋賀県大津、琵琶湖、瀬田の唐橋を越えて、「数寄和」の新ギャラリーへ。 江戸は戸越在、亀井武彦氏、号・玄亀阿仁摩の「墨描展」の初日だった。 印は、亀井さんデザイン。私は、それを無心に石に刻んだ。補刀はない。 篆刻をはじめて間もない頃、病み上がりで年賀状を印刷する気力もない。 官製はがきに「御慶」と大書して、「幸都萬具」の印を、ポンと押した。 亀井さんからの電話。「この印、誰?」 「私です」 「へェ、僕のも彫ってよ」 それから「玄亀」「阿仁摩」「亀笑庵」、また彼独創の図象印と、いくつかを彫った。 誰かの印を続けて彫る、というのは篆刻人にとってうれしく、励みにもなる。 さて、墨描展。ひたすらに墨が生命をはらんで、うねっている。理屈は、ない。 大きな文字も文字の意味も、バッサリと断ち落とされて、ただの紙と墨になる。 しかし、朝日が、残照が、木漏れ日が、そして龍が、確かにいる。これが「アニマ」か。 墨の生命に囲まれながら、「篆刻は方寸の中で、理屈のかたまりだなァ」と思う。 「ま、難しく考えず、気楽に、ぼちぼち行こうや」と、印の中で亀が笑っている。
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