赤い鶴は、消えたが。(篆刻:烏飛)

烏飛
私の生まれは、横浜市鶴見区。昔は、湿地帯で鶴が群れていたのだそうだが。 日本航空のマークの鶴の話。コピーライターになって2、3年後のことだった。 若手たちはこぞって広告賞に応募したものだ。同じ三菱銀行担当チームの Kさんというデザイナーが「朝日広告賞に、こんなビジュアル考えたけれど、 コピー書く?」と誘ってくれた。新聞10段、赤のプラス1色で、2点。 ひとつは、丸いマークの鶴が、駒撮り風に飛び出していく。もうひとつは、 飛んできた鶴がマークに収まる。女性コピーライターも手を挙げたので、 彼女が飛ぶ方、私が帰る方になった。そこで、生意気盛りの私は言った。 「2点をまとめて出したら、足を引っ張られるかもしれない。別々に出したい」 ならば、とそうしたのだが。結果は、飛び出る方が朝日広告賞になった。 ある朝、会社に行くと、デスクの上に三菱銀行の封筒が置いてある。 中には1万円札が3枚。「途中まで一緒にやったんだから、取っときなよ」と Kさんの声。それをいただいたかお返したかは、ご想像にまかせるとして。 篆刻は、歳月はすぐ過ぎるという「兎走(とそう)」と対の「烏飛(うひ)」で、 兎は月、烏(からす)は日。あっという間の40年近くでも、消えない黒い思い出。
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