兎のように、走る。(篆刻:兎走)

兎走
篆刻は、「烏飛」と対の「兎走」。続く話は、またたく間の35年前。マクドナルドの 新しい広告部長が、私に言った。「これまでのCMは一切忘れて、人が感動する 企画を考えてください」 「流すCMは何本も商品篇があるから、いい案が出るまで 何ヵ月でも待ちます」 感動!? それから長く暗いトンネルの日々が始まった。 来る日もくる日も、思いつくままコンテを描き続けるが、駄目、だめ、ダメ。 寝ても覚めても頭から離れない。朝起きると毛布が寝汗でグッショリ濡れている。 2、3ヵ月もたったある時、それは突然生まれた。すぐにコンテにまとめて、 翌日10時の約束をする。が、安心して気がゆるんだのか、起きたのが10時。 駅へ走る。ホームを走る。いつもは乗らない横須賀線に飛び乗る。1時間の 遅刻で、見てもらった企画も、走る案。走るのは、マクドナルドのトラックだが。 朝まだ明けやらぬ道。ゴールデンアーチをつけた配送トラックが走る。 道端の草。朝露が揺れて飛ぶ。「これですよ、待っていたのは」と、部長は 満面の笑み。結果的には、そのトラックが全国配置できていない、という理由で 別案になった。深夜の厨房で、クルーがひとり黙々と鉄板を磨いている。 ナレーション『マクドナルドは眠りません。たったひとつのハンガーガーのために』
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