誰かのための、本。(篆刻:我為人々)

我為人人
田辺聖子の本、それもハイ・ミスが妻も子もある男と、滑った転んだという話。 そのラストで、不覚にも涙ぐんでしまった。久しぶりに新地(の隅)で飲んでの帰り。 地下鉄西梅田駅の不要な本を持ち寄っての「リサイクル文庫」で、借りた本。 この本は当りだったけれど、酔っていたら面白くても、覚めたら大違いは、 飲んだ時の馬鹿話と同じ。返さない人も多いのか、棚にはこの1冊だけだった。 大阪・堂島に会社があった頃。デザイナーだった息子の遊が、私が家を出る時 まだ寝ていたのに、西梅田で降りようとすると、同じ車両の離れたところで、 文庫本から目を上げることが、何回もあった。奈良の駅まで車を飛ばしたのだろう、 誰かを巻き添えに事故など起こさなければいいがと、心配したものだが。 彼がバイクのレースで亡くなって、本棚には文庫本が100冊以上も残された。 いま、もう1度この小説『窓を開けますか?』を見て、驚いた。昭和47年に 新潮社から刊行されたとある。47年は、遊が生まれた年。小説には、主人公の 恋人の娘がバイクの後ろに乗って事故死する話まである。この本をちゃんと返そう。 その時、遊の本をリサイクル文庫に置いてもらおう。遊の本を、酔っ払いでも 構わないから、誰かに読んでもらおう。篆刻は、旧作の「我、人々の為に」。
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