吉田脩二先生は、初めての診察で10ヶ月も(実はもっと長いのだが)苦しんだ私の
うつ病にピタリ効く薬を下さった方なのだが。『ヒトとサルのあいだ』(文芸春秋)に続く
新刊が『感じる力 瞑想で人は変われる』(PHP新書)と知って驚いた。つい先日、
高野山系の種智院大学の友人に密教瞑想を習いたいと頼んだところだったから。
ただし、この本は瞑想の手引きではない。現代の人と社会がなぜヨガや瞑想に頼り
たくなるかをていねいに紐解いてくれる。その始まりは、狩猟採集民(自然人)だった
人間が農耕民になったこと。農耕は時刻・暦、過去・現在・未来という概念を必要とし、
農作業や灌漑で労働集約するために家族、村、そして国家(と権力)が生まれた。
狩猟採集民のイヌイットの父親が子の前で「この子は好きになれない」と言い、子も
黙って笑うだけという話は象徴的だ。その対極には理想の家族を演じ、いい子で
あろうとしながら破綻した不登校児やうつ病の若者がいる。「家族はこうあるべきを
前提にしてはならない。不幸にして仲悪くても、それも人間関係であれば許されるべき」
という言葉は、思春期の病める心を見守り続けてきた先生の切実な叫びに聞こえる。
読みながら、先生にはいわゆる瞑想の実体験が少ないような印象を受けたのだが。
それには確かな答えがあった。25歳の時に絵を描いていて自然との一体感を得た。
以来、先生は絵を描き続けている。今年も7月12日?17日まで大阪府立現代美術
センターで個展をされる。山を描く時、先生は山と自分が混然となっているに違いない。
それこそが先生の瞑想法だから。ささやかでも好きなことを続ける、それも瞑想なのだ。
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瞑想の、力。(篆刻:瞑)
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