奈良県生駒市の一風工房は、陶芸作家市川和美さんと造形作家の百木一朗さん
ご夫妻の工房で、私も篆刻を彫らせていただいたが。おふたりとも、いわゆる陶芸と
一線を画した作風でとてもファンが多い。とくに百木さんの陶の作品は、窓の少ない
小さな家が密集した(行ったことはないがモロッコのような)街がほとんど。展覧会の
ハガキによれば、「作りたいのは建物の形ではなく、家と家の空間なのだ」という。
市川さんからカミサンを通じて「こんな本がお好きなのでは」と私に渡されたのは
百木さんの絵と文による『直す現場』(ビレッジプレス刊)。伊丹十三や妹尾河童を
思い出させる細かな線画で、ジーンズ、本、バッグ、靴などの修理、研ぎや塗りの
職人たちの現場が描かれている。直す人の足や腰の場所は点線で示されるだけ。
そして文は、コピーライターとして何人もの取材をした私が同じ話を聞いても、こうは
書けないだろうと思うほど。モノと機械・工具、それを愛する人の心がしぶく光る。
こうした人々の知恵と工夫さえあれば、モノはいつまでも人と仲良く暮らしていける
と思うのだが。さて、原子力発電所の事故や故障はいつになれば直るのだろうか。
篆刻は「直」で、目に呪力を加える飾りを付けた「省」とその呪力を秘す「L」。姿が
見えず線量計でしか確かめられない放射線と人が仲直りできるとは、とても思えない。
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モノを、直す。(篆刻:直)
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