浅田次郎の小説といえば『壬生義士伝』は、上下2巻を読んで実に面白かった。稀代の
ストーリーテラーと認めるが、それ以外に特に読んだこともない。さて、日経新聞朝刊で
5月から連載が始まった浅田次郎の『黒書院の六兵衛』には、毎朝イライラしている。
江戸城明渡しの先手を命じられた尾張藩士・加倉井隼人が、城内の黒書院に居座り続け
無言を押し通す御所院番士・的矢六兵衛をいかに穏便に追い出すかという話なのだが。
その六兵衛が金で地位を買って本人と入れ替わったことまでは分かったが、3ヶ月半を
過ぎた今朝もまだ、その頃の旗本たちの台所の困窮をあれこれと書き連ねるばかりで、
一向にらちがあかない。篆刻は「我満」。我慢を続ければ、そのうち何かがおのれの中に
満ちてくることもある、との多少の感懐を形にしたが、はたしてこの『黒書院の六兵衛』、
いつになったら何かが満ちてくるのやら。毎朝、いつか、そのうちにと我慢を続けている。
ところで、日経新聞は今朝も社説で脱原発に反対し、原発の存続を主張し続けている。
一方、浅田次郎は日本ペンクラブ会長として『いまこそ私は原発に反対します』という
本で「はじめに」を書き、会員たち(自分も)の主張を連ねている。経済界のお先棒で
原発存続の旗を掲げる日経新聞の紙面の奥の小部屋で、原発反対論者の浅田次郎は
饒舌な『黒書院の次郎兵衛』を決め込んでいる様子。この見立ては、おもしろいでしょ。
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我慢と、我満。(篆刻:我満)
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