心の中に、仏あり。(篆刻:心中仏)

心中仏
吉田脩二先生は、クリニックでは若い患者さんを診て、成人は他の先生が 担当されていた。カミサンの手紙を読んで、「ならば」と答えてくださったことを後で知る。 私の全快を見届けるように、医師を引退されたから、私は大人の最後の患者だった。 油絵を描かれていて、展覧会も拝見したことがある。山の絵が多く、豪快なタッチ。 「どっしり構えて、細かいことを考えなさんな」というメッセージが伝わってきた。 長野に移住されて、新住所からのお手紙で住所印をお望みになったので、 拙いながら彫らせていただいた。現在は、山を望んで悠々自適、お好きな油絵三昧。 私のうつ病がかなり良くなって、人と会うのも苦痛でなくなってきた頃。柳生近くの 山の中に工房を構える友人の仏師Yさんから、家でブラブラしているのなら 手伝わないか、という話が舞い込んだ。仁王さんの解体修理、仕上げの色塗りという。 弁当を持って、自転車で通った。2メートル近い大きな仁王さん2体。私は台座の岩を 塗って、苔などを教えられるままに描いた。完成した仁王さんを真っ白なサラシでくるみ、 トラックで茨城県結城市のお寺に運び、据え付けも手伝った。篆刻は「心中仏」。 誰でも心の中に仏はおわす、という意味か。この仁王さんの胎内に納めた木札には、 仏師の名に続いて、おこがましくも彩色師として私の名がある。「仏の中に私あり」
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