『風立ちぬ』、感想文。(篆刻:天上大風)

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「私は自由です。」 宮崎駿さんの長編アニメ引退会見の第一声だが、これ以上に
ふさわしい言葉は無かっただろう。アニメーターであるがために、絵を描きながらで
しか映画を作れない。その労力は並みや尋常ではないはず。でも、だからこそ木目
や雲にも圧倒的なマチエールが生まれ、ストーリーの説得力までも増幅させていた。

だが、私は全作品を見たわけではないから評論の資格はないが、最後の作となった
『風立ちぬ』には、正直がっかりした。実在人物をモデルにしたから無いものねだり
だろうが、これまでの宮崎作品の魅力だった壮大な文明史観、未来への洞察・示唆が
欠けていて、ラブロマンス×技術者の夢に終わっていた。美しい飛行機をつくる夢と
殺戮の道具・零戦設計の現実のはざまでの苦悩がほとんど見られない。肝心な所で
イタリア人飛行機設計家との夢の中の話になるが、私には逃げに見えた。「時代が
きしみながら変わるいま、これまでのようなメルヘンをつくる場合じゃない」という
想いには素直に賛同するが、残念ながら『風立ちぬ』はその答えになっていなかった。

「創造のピークは10年間」というセリフが自分の気力・体力の限界を思い知ったことの
暗示にも聞こえたが。とにもかくにも、心の底からの「お疲れさま、ありがとう」を言おう。
篆刻は映画にも出てきた良寛の書から「天上大風」。宮崎さんに敬意を込めて彫った。

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