タヌキ、という猫。(篆刻:落葉)

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その猫をはじめて見たのは、村の葬式だった。参列する大勢の人たちを物ともせず、
塀の上を悠然と歩いていた。見るからに野良猫然として、毛が長いので大きく見えた。

それが何かのきっかけでこの家に住みつくようになった。名前は猫には見えないので、
タヌキ(略してタヌ)にした。他ではパンを取って逃げたり、かなりの悪さをしていたらしい
のだが、ここでは本当に控えめ。我々の食事中に他の猫が食べ物を欲しがっていても、
決まった場所の猫の餌しか食べない。若いダンダンを弟分のようにして、ジャレながら
喧嘩の仕方を教えた。最年長の責任感からか餌を食べにくる野良猫を見張り、来れば
追いかけて、時には格闘もした。家で寝るときは仰向けの大の字で、人なつっこいから、
お客さんには人気者だった。それが、この夏頃から、夜ガラス戸をガリガリやって外に
出たがる。出たばかりなのに、外からまたガリガリして入りたがる。いま思えば、痴呆に
なっていたらしい。秋口に数日帰らない日があり、それから食欲が落ちた。何も食べず、
水も飲まないようになって、昼は外の決まった場所で寝続けた。最後は土間で横になり、
カミサンが見守るなかで、息を引きとった。板の墓標にはあえて「愛猫タヌキ」と書いた。

篆刻は、三游会に出品予定の「飛花落葉」のうちの「落葉」。秋が深まり、桜などが
紅葉して散る頃、タヌキはまるで枯葉が落ちるように死んだ。ありがとう。さようなら。

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