拝啓 篠田桃紅様 (篆刻:創)

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NHKで篠田桃紅さんのドキュメンタリーを見た。私の亡くなった母と同じ大正2年の
生まれで102歳。ディレクターにいきなり「取材で真実が撮れるなんて思い上りよ」と
カウンターを浴びせるのだから、まだまだ元気。「人間が桜を可愛いなんて」、「桜の
方が人間は可愛いと思っているでしょ」と、自然に比べれば人間は小さなものと、また
脳天に一撃。妻にならず、母にもならず、女独りを貫き創造を持続してきたのだから、
精神の強さは尋常ではないだろう。こういう女性は苦手だけれど、敬意は表したい。

5歳頃から書を初めて前衛書で高い評価を得ながらも、書から水墨の抽象画「墨象」に
転じた理由は。「文字は文字の決まりを越えられないから、いくら何をしてもアレンジで
しかない、書はクリエイション(創造)でないから。そこに収まりきれなかった」というが。

その論法なら、生け花は花のアレンジに過ぎない。写実は創造ではなく、抽象だけが
創造ということなのか。自らを律する理屈だから他に害を及ぼすものではないのだが。
細い3本の線で月のような形を書いて、題は「月」。文字としての制約を逃れたいのに、
自らがつけた題で月と読む(見る)ことを強いているのが気になる。余計なお世話だが、
その偏狭ゆえにもっとおおらかで自由な何かを見失うことはなかっただろうか。篆刻と
いう「書体のアレンジ」でも、まだ新しい何かが創造できると、私は信じているのだが。

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