一事を、一華として。(篆刻:一事一華)

一事一華
逗子暮らしのすべてが悪いことだった訳ではない。敷地の西、鎌倉側の海岸からの 夕焼けに染まる富士山は眼福だった。ある休みの朝、せっかく逗子にいるのだからと、 三浦半島の三崎にマグロ市場を見にいった。が、あいにく市場は休み。岸壁を散歩する。 作業場らしき建物。中では、冷凍のマグロを帯ノコで切ったりしている。窓から覗いて、 思わず写真を撮る。軽トラックが着いた。白く凍った巨大なマグロを降ろしはじめた。 マグロを運びながら、「インド洋で獲って、すぐマイナス70℃で瞬間冷凍する」 「ほら、こんなに硬い」「このマグロは、どこにも負けない」「この辺では○○寿司でしか 食べられない」と自信に満ちた話をしてくれる。中での作業を目で追っていると、 出てきて、「よかったら、これ、食べてごらんよ」と大きな塊を手渡して下さった。 思いっきり大トロを食べたのは、生まれてはじめて。美味かったことは、言うまでもない。 書道が趣味と聞いて、お礼に篆刻を差し上げた。奥様も生け花をされていて、カミサンと 文通が続いている。海のない奈良から正月用のマグロを注文するのが、恒例になった。 三崎魚市場丸十商店の芝本孝一さん。「TVチャンピオン」にマグロの目利きで登場、 久しぶりに元気なお顔を拝見して、うれしかった。篆刻は、左回りで「一事一華」。 この出来事は、短い逗子の日々に咲いた花。花の色は、もちろんマグロのトロの色。
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