『梅ケ谷ゴミ屋敷の憂欝』は、面白かった。(篆刻:憂)

201635183749.jpg
『梅ケ谷ゴミ屋敷の憂鬱』はホラーサスペンス大賞特別賞を受賞したミステリー
作家・牧村泉の4冊目の本だが、帯には蛍光ピンクで「愉快爽快エンタメ!」と
ある。主人公・珠希は東京から大阪の夫の実家に同居することになったのだが、
その鉄筋2階建ての大きな家は粗大ゴミ置き場のよう。ゴミの種類はご想像に
任せるが、無数のゴミに負けじとガラクタのような人間が次々に湧いて出てくる。

その人間関係のもつれの主な原因は珠希が不倫によって離婚させた夫と元妻、
その娘。筆の向くまま登場させたような、とっ散らかった人間たちが後半になって
もつれた糸をほどき、切れた糸を結ぶように整然とつながりだす。読みはじめは
ミステリーよりこのジャンルの方がいいかもと気楽だったが、中盤は人間関係の
複雑さにうんざり気味に、後半で「愉快爽快エンタメ!」をひっくり返されて、これは
ミステリーではないかと舌を巻いた。おまけに東京から来た珠希の母が姑と会って
すぐ血走った目で逃げ帰った理由は、謎のままで残してあるという周到さなのだ。

先の芥川賞『異種婚姻譚』も夫婦の葛藤を描いたもので、夫婦はだんだん似て
くるというよくある話をもったいぶって書き連ね、最後は夫が山芍薬になってしまう。
「譚」に名を借りた安直さでも芥川賞だという、それの方がよほど憂欝ではないか。

※篆刻「憂」は、頭に喪章の麻ひもを巻いて愁える人の形。

ページ上部へ