『阿久悠日記を読む』を読む。(篆刻:悠)

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『阿久悠日記を読む』は副題で、書名は『不機嫌な作詞家』(三田完著、文芸春秋刊)で、
明治大学の阿久悠記念館保管の26年7ヵ月分の日記から、阿久悠の真実に迫る試みだ。

淡路島の巡査の次男として生まれ、8歳で兄が戦死、14歳で結核のため自宅療養などが
『時代おくれ』の歌詞の下地と知ったのは収穫だった。ヒットを出し、賞を立て続けに獲った
頃、父がポツリと一言「お前の歌は品がいいね」。それを勲章に彼は詞を書き続けたという。
この話は泣ける。小林旭の『熱き心に』は好きな歌だが、元はAGFのCMソング。私も何回か
お世話になった大森昭男さんプロデュースと知って驚いた。歌は『北帰行』の小林旭でスタート。
大森さんは大瀧詠一以外ならやらないと決めた。大瀧は曲が出来上がった夜中、妻を叩き
起こして「聴け!」と言った。そして彼はその曲の詞をまだ面識のなかった阿久悠に託した。
この話にも泣けた。宣弘社時代の後輩が昭和の絵師・上村一夫なのだが、上村から贈られた
イラストを阿久悠は自室の押し入れの中の正面に飾ったという。その篤い思いにも泣けた。

後半は壮絶な闘病の記録だが、腎臓癌の手術の直前にNHKの「課外授業」で母校の
小学生にスーツ姿で「ことばは道具ではなく心と知性そのものですから」と、伝えている。
最後の一行を読み終えて、自分の嗚咽に狼狽した。そんな本は滅多にあるものではない。

私が読んだのは2016年7月30日発行の第一刷。2007年のきょう8月1日、70歳で死去。

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